「血圧を測るといつも全然違う数値が出るけど、なぜなんだろう?」
「朝と夜の血圧差が大きいのは、何か問題があるのかな?」
血圧を測っていて、こんな疑問を感じたことはありませんか。
血圧はちょっとしたことですぐ変動し、基本的に活動時や緊張しているときに高くなり、休息時やリラックスしているときに低くなります。
ただし、血圧の変動が激しい場合や、朝だけ高い、夜だけ高いなどいつも決まった時間帯に数値が高くなるような場合は、何らかの原因が潜んでいる可能性があり、注意が必要です。
この記事では血圧の「変動」に注目し、詳しく解説していきます。
1.血圧は1日のうちで自然に変動する
血圧は自律神経の働きと密接に関係しているため1日を通して変動し、精神的な状態によっても変動します。
このような1日のうちに起こる上昇や低下のことを「血圧の日内変動」といいます[1]。
[1] 苅尾七臣ほか6名著『高血圧 脳卒中・心筋梗塞・動脈瘤 循環器内科の名医が教える 最高の治し方大全』(文響社)
1-1.自律神経の働きによる変動
血圧は、自分の意思ではコントロールできない自律神経に支配されています。
自律神経には昼間や緊張しているときに優位になる「交感神経」と、夜間やリラックスしているときに優位になる「副交感神経」の2種類があり、この二つがバランスを取り合いながら働いています。
血圧は交感神経優位のときに高くなり、副交感神経優位のときに低くなるので、朝起きて身体活動が始まると上昇し、昼頃に最も高くなり、その後徐々に下がっていって、夜眠るときに低くなるのは正常な変動です。
こうした血圧の日内変動は、活動時にはしっかり活動し、休息時にはしっかり休むために、私たちの体に自然に備わったシステムといって良いでしょう。
1-2.入浴、食事などの日常生活でも血圧は変動する
日内変動以外にも、私たちの日常生活のなかには血圧が変動しやすいシーンがいくつもあります。
その一つが入浴です。
例えば、脱衣室に入る、服を脱ぐ、浴室に入る、体を洗う、浴槽につかる、浴槽から出る、浴室から出るといった一連の行為の中でも、血圧はめまぐるしく変動するため、注意が必要です。
入浴時のお湯の温度が高いと、その刺激によって血管が収縮するため、血圧は一時的に上昇しますが、血液の循環が良くなってくると、血管が拡張してきて血圧は下がっていきます。
しかし、こうした血圧の変動が激しいと、脳卒中や心筋梗塞の発作を起こしたりすることもあるので注意が必要です。
入浴に伴う血圧の変動
暖かい室内 血圧は安定
寒い脱衣室 血管が収縮し、血圧が上昇
寒い浴室 さらに血圧が上昇
熱い浴槽内 血管が拡張し、血圧が低下
また、意外に思われるかもしれませんが、食事でも血圧は変動します。
食べ物を摂ると胃腸はそれを消化・吸収するために動き、代謝が促されて最大血圧は上昇し、最小血圧は低下するのです。
そして食事の量や内容によっても変わりますが、食後1時間程度で元の血圧に戻ります。
ただし、まれに食後急激に血圧が下がり、めまいやふらつきなどを起こす方がいて、このような症状を「食後低血圧」と呼びます。
食後低血圧は自律神経の機能が低下しやすい高齢者に多くみられますが、高血圧や糖尿病に伴う神経障害などの方にも起こりやすいので要注意です。
これらのほかに、気温、気圧、飲酒、喫煙、排便、運動などによっても血圧は変動します。
よく「血圧測定は食後1時間以上、運動や入浴後30分以上経過してから行うように」と言われますが、こうした影響をできるだけ避け、安定的な数値を得るためなのですね。
1-3.家庭で測る血圧「家庭血圧」と病院で測る血圧も差が出る
高血圧の方に限らず健康な方でも、病院や健診施設などで血圧を測ると家庭で測ったときよりも高い数値が出やすいことが分かっています。
家庭ではリラックスして測定できますが、病院や健診では緊張して血圧が上がってしまうのです。
そのため病院で測定した血圧は「診察室血圧」、家庭で測定した血圧は「家庭血圧」と区別して呼ばれ、それぞれ基準が設けられています。
日本高血圧学会の高血圧の診断基準は、診察室血圧が140/90mmHg以上、家庭血圧が135/85mmHg以上です[2]。
一般に診察室血圧よりも家庭血圧の方が高血圧の実態を反映していると考えられ、家庭血圧をみることが重要視されています。
そのためにも、家庭で毎日血圧を測る習慣は大切ですね。
2.自然な変動を超える「血圧の変動が激しい」人のリスクとは
血圧は自律神経の働きで、朝、昼、夜という大きな変動に、食事、運動、排せつといった行為による小さな変動を交えながら安定的に保たれています。
しかし、こうした自然な変動を超えて血圧の変動が激しい場合は注意が必要です。
2-1.通常の変動を超える「危険な血圧の変動」とは
通常、血圧を複数回測ったとしても数値に大きな違いはありませんが、なかには血圧が15mmHg以上も変動するような方がいます。
こうしたケースで疑われるのが、動脈硬化です。
血管が硬くなって弾力性を失った動脈硬化の状態では血圧の変動が大きくなりやすく、血圧変動が大きければ大きいほど、将来、脳卒中や心筋梗塞などの命にかかわる病気を招くリスクも高くなることが分かっています。
血圧が正常範囲内(収縮期血圧130mmHg未満)の方のなかにも、ちょっとしたことで血圧が急上昇して異常に高くなることがあり、これを「血圧サージ」と呼んでいます[3]。
急激な血圧の変動である血圧サージは血管にとっては大きな負担であり、血管にダメージを与えて動脈硬化を進める元凶となります。
そして動脈硬化が進むことで血圧調整がうまくいかなくなり、また血圧サージを起こし、さらに動脈硬化が進行するという悪循環を招いてしまうのです。
すでに高血圧と診断されている方はもとより、血圧が正常値の方も油断は禁物です。
[3] 苅尾七臣ほか6名著『高血圧 脳卒中・心筋梗塞・動脈瘤 循環器内科の名医が教える 最高の治し方大全』(文響社)
2-2.血圧の変動が激しいかどうかは「起立血圧測定」で分かる
「1日中血圧を測れるわけではないし、血圧の変動が激しいかどうかはどうやって分かるの?」
そう思われた方もいらっしゃるかもしれません。
医療機関では特殊な血圧計を使う「24時間自由行動下血圧測定(ABPM)」を実施していますが、家庭で簡単にチェックする方法もあります。
それが、座った姿勢の他に立った姿勢でも血圧を測る「起立血圧測定」です。
次に紹介する方法で毎月1回くらいの割合で行い、数値に不安がある場合は主治医に相談するようにしましょう。
起立血圧測定の方法[4]
- 椅子に座り、心臓の高さに合わせて上腕に血圧計のカフを巻き、2回測定する。
- 座ったまま5分間安静にする。
- カフを巻いたままその場に立ち上がり、3分以内に血圧を測定する。続けて2回めも測る。
- 5日間続けて測定し、座って測った収縮期血圧(上の血圧)の平均値と立って測った収縮期血圧の平均値を比較する。➡収縮期血圧の平均値の差が10mmHg以上あれば、主治医に相談してください。
[4] 苅尾七臣ほか6名著『高血圧 脳卒中・心筋梗塞・動脈瘤 循環器内科の名医が教える 最高の治し方大全』(文響社)
3.病院で見逃されやすい「仮面高血圧」の三つのタイプ
血圧の変動が激しい方のなかには、日中に病院などで血圧を測ったときは正常範囲に収まっているのに、特定の時間帯になると突出して数値が高くなる方がいます。
言いかえれば、診察室血圧は正常範囲なのに、家庭血圧では正常値を超えてしまう方です。
こうしたケースでは医師や医療スタッフが気付かず、しばしば高血圧が見逃されやすいため「仮面高血圧」と呼ばれています。
仮面高血圧には、早朝に血圧が高くなる「早朝高血圧」、日中に高くなる「昼間高血圧」、夜間に血圧が高くなったり低下が少なかったりする「夜間高血圧」の三つのタイプがあります[5]。
[5] 苅尾七臣ほか6名著『高血圧 脳卒中・心筋梗塞・動脈瘤 循環器内科の名医が教える 最高の治し方大全』(文響社)
3-1.「早朝高血圧」の症状と原因
起床後、排尿を済ませて血圧を測定し、収縮期血圧(上の血圧)が135mmHg以上または拡張期血圧(下の血圧)が85mmHg以上の日が1週間に2日以上ある場合は、早朝高血圧が疑われます[6]。
早朝は、血圧が最も下がっている時間帯です。
通常は、その後起床すると徐々に血圧が上がっていくのですが、高齢者や、血糖値・コレステロール値の高い方、アルコール摂取量の多い方などは、急激に血圧が上がる血圧サージが起こりやすいといわれています。
早朝高血圧にとりわけ注意が必要なのは、早朝から正午までの時間帯は脳卒中や心筋梗塞が起こりやすい時間帯でもあるためです。
早朝高血圧の方は、起床後2時間くらいは寒暖差の激しい環境を行き来する、トイレでいきむなど血圧の上がりやすい行動を避けるようにしましょう。
[6] 苅尾七臣ほか6名著『高血圧 脳卒中・心筋梗塞・動脈瘤 循環器内科の名医が教える 最高の治し方大全』(文響社)
3-2.「昼間高血圧(職場高血圧)」の症状と原因
他の時間帯では血圧が正常値にもかかわらず、昼間に収縮期血圧(上の血圧)135 mmHg以上/拡張期血圧(下の血圧)85 mmHg以上になる場合は、昼間高血圧と呼ばれます[7]。
仕事や家庭問題などで強いストレスにさらされていることが主な原因で、職場高血圧と呼ばれることもあります。
ストレス対策をしっかり行うことが大切です。
[7] 苅尾七臣ほか6名著『高血圧 脳卒中・心筋梗塞・動脈瘤 循環器内科の名医が教える 最高の治し方大全』(文響社)
3-3.「夜間高血圧」の症状と原因
夜間高血圧には大きく分けて、昼間より夜間に血圧が高くなるタイプと、就寝中に血圧があまり下がらないタイプがあります。
このうち昼間より夜間に血圧が高くなるタイプは、ストレスなどからくる自律神経障害や睡眠時無呼吸症候群などが原因となります。
一方、就寝中に血圧があまり下がらないタイプは、喫煙、塩分の摂り過ぎといった生活習慣や、糖尿病、腎臓病、睡眠時無呼吸症候群などが原因のことがあります。
この他に、昼間よりも夜間の血圧が過剰に(昼間の血圧平均よりも20%以上)低くなるタイプもあり、このタイプは脱水や降圧剤の効き過ぎなどが疑われます。
いずれも放置すれば長期間にわたって血管に負担がかかり、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まるため、早期発見による治療が大切です。
どのタイプの仮面高血圧も、家庭で朝、昼、夜と3回血圧を測定することである程度把握できますが、睡眠中の血圧測定などは難しいため、正確な診断のためには医療機関の受診が必要です。
病院ではこうした方に対し、24時間自由行動下血圧測定(ABPM)などを用いて診療します。
4.左右の腕で血圧が違う人は要注意
血圧の変動に着目した最後に、血圧の左右差についてご紹介しておきましょう。
「血圧って右腕で測っても左腕で測っても同じではないの?」
と思われましたか?
たいていの方はいつも決まった方の腕で血圧を測定していると思いますが、実は、左右の腕には血圧差があり、一般的には右の上腕の血圧が左の上腕よりわずかに高いことが多いのです。
これは主に心臓と血管の構造によるもので、その差はほとんど問題にならない程度のものです。
しかし、右腕と左腕で測ってみて、常に左右の差が15 mmHg以上ある場合は、要注意です[8]。
この場合、血圧が低い側のどこかの血管に、動脈硬化により血管の狭窄が起こっている可能性があるため、動脈硬化の精査が必要となります。
右利きの方が血圧を測る場合は左腕上腕にカフを巻いて測ることが多く、左腕で測って正常値だと安心していたら、実は右腕の上腕の血圧が高い状態だったということが、しばしばあるのです。
「これまで血圧の左右差なんて考えたこともない」
という方は、ぜひ両腕で測定して比べてみてください。
そして現在のところ目立った左右差がなかった方も、毎回同じ腕で測定することを基本とした上で、時々左右の血圧差をチェックするようにしましょう。
[8] 苅尾七臣ほか6名著『高血圧 脳卒中・心筋梗塞・動脈瘤 循環器内科の名医が教える 最高の治し方大全』(文響社)
5.血圧の変動が激しいときの症状のまとめ
血圧というと数値の高さばかりに目が行きがちですが、血圧の変動に注意することも大切なポイントです。
この機会に、いろいろな生活シーンで自分の血圧がどのように変動をしているかを実際に測定してみてはいかがでしょうか。
血圧を測ることを通じて自分の体に関心を持つようになれば、もっと良い数値を目指そうと健康的な生活を心掛けるようになり、モチベーションアップにもつながりますよ。
監修者紹介
この記事の監修者
自治医科大学 内科学講座 循環器内科学部門
教授
【経歴】
1962年、兵庫県生まれ。1987年、自治医科大学卒業。1989年、兵庫県北淡町国民健康保険北淡診療所を経て、自治医科大学循環器内科学講座助手、コーネル大学医学部循環器センター/ロックフェラー大学Guest Investigator、自治医科大学循環器内科学講座講師、コロンビア大学医学部客員教授、自治医科大学内科学講座COE教授・内科学講座循環器内科学部門教授、2009年より現職。専門は循環器内科学。特に高血圧、動脈硬化、老年病学。
【HP情報】
»自治医科大学 内科学講座 循環器内科学部門