糖尿病とは?原因や症状、診断基準、予防のポイントについて解説
「糖尿病ってどんな病気なんだろう?」
糖尿病という病気の名前は知っていても、実際にどんな病気なのかまでは詳しくは知らないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
糖尿病は血液中のブドウ糖の濃度が慢性的に高くなってしまう病気です。
この影響で体中の血管が傷ついたり詰まったりして、命に関わる多くの合併症が引き起こされます。
この記事では糖尿病とはどのような病気か、また合併症がどのような危険をもたらすのかを解説します。
また糖尿病の原因と予防・改善のためのポイントもご紹介します。
1.糖尿病とは
「糖尿病ってよく聞くけどどんな病気なんだろう?」
糖尿病という病気の存在は知っていても、どのような病気なのかはよく知らないという方も多いのではないでしょうか。
糖尿病は慢性的に「血糖値」が高い状態が続く病気です。
血糖値とは、血液中の「ブドウ糖」の濃度のことです。
ヒトが食事を摂ると食品中の栄養素が消化され、小腸などから体内に吸収されます。
この際、食品に含まれる糖質は消化されてブドウ糖などに分解され、血液中に取り込まれます。
血液中に入ったブドウ糖は血糖と呼ばれ、この血糖の濃度が血糖値です。
通常血糖値は食後に上昇しますが、健康な人であれば「インスリン」というホルモンの作用により食後2時間程度で食前のレベルにまで低下します[1]。
インスリンには、ブドウ糖をエネルギーとして細胞に取り込ませるはたらきの他、余ったブドウ糖を脂肪などに合成して蓄えるのを推進する作用があります。
このためインスリンが正常にはたらかなくなると、血糖値が上昇したまま下がりにくくなります。
この状態が高血糖です。
高血糖はインスリンの分泌量が不足した場合と、インスリンが分泌されても効果が発揮できない場合に起こります。
インスリンの分泌量は膵臓(すいぞう)の機能が低下した場合に減少します。
またインスリンの効果が十分に発揮できない状態は「インスリン抵抗性」といい、肥満や運動不足、脂質の多い食事などが要因となって起こります。
こうした理由から高血糖が慢性的になった状態が「糖尿病」です。
[1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「食後高血糖」
1-1.糖尿病の種類
糖尿病は発症に至る原因の違いによって大きく四つに分類されます。
【糖尿病の種類】
- 1型糖尿病
- 2型糖尿病
- 妊娠糖尿病
- その他
1型糖尿病はインスリンをつくる膵臓のβ細胞が破壊されることで発症します。
β細胞が破壊される理由はよく分かっていませんが、免疫機能が正しくはたらかず、自分の細胞を攻撃してしまう「自己免疫」が関連しているといわれています。
2型糖尿病は遺伝的な要因や生活習慣により、膵臓の機能低下やインスリン抵抗性が重なることで発症します。
糖尿病のなかで最も多く、一般的に糖尿病という場合はこの2型糖尿病を指します。
妊娠糖尿病は妊娠中に初めて指摘される高血糖で、糖尿病とまではいえない状態のことです。
妊娠時に胎盤から分泌されるホルモンがインスリンのはたらきを抑制し、血糖値が高くなることが原因です。
その他に分類されるのは糖尿病以外の病気や、病気の治療薬などの影響で血糖値が上昇することで糖尿病を発症するケースです。
1-2.糖尿病の症状
「糖尿病ではどんな症状が出るんだろう?」
血糖値が高くなっている兆候や、糖尿病になってしまった場合の症状を知りたい方もいらっしゃるでしょう。
しかし血糖値が高くなっても、多くの場合自覚できるような症状は生じません。
気付かないうちに血糖値が上がり、自覚のないまま糖尿病と診断されるケースも多いといわれています。
このためご自身の症状を頼りに、糖尿病を察知することは難しいでしょう。
ただし重度の高血糖では、喉が乾きやすくなる、尿量が増えるといった症状が現れます。
この段階で現れる他の特徴的な症状は倦怠(けんたい)感や体重減少です。
またこの頃になると尿からブドウ糖が漏れ出し、甘酸っぱい独特のにおいが漂う場合があります。
さらに重度になると意識障害や昏睡(こんすい)といった症状に至ります。
加えて、糖尿病では高血糖の症状に加えて命に関わる深刻な合併症が起こります。
1-3.糖尿病の診断基準
通常、糖尿病の診断は複数回の検査を組み合わせて行われます。
ただし、以下のいずれかに当てはまる場合は糖尿病の可能性が高いとされています。
【糖尿病の可能性が高い状況】
- 空腹時血糖値が126mg/dL以上[2]
- 随時血値糖が200mg/dL以上[2]
- HbA1cが6.5%以上[2]
健康診断などの検査でこうした数値が出た場合は糖尿病の可能性が高いため、早急に医療機関を受診しましょう。
なお多くの場合血糖値は突然高くなるわけではなく、正常域から数年かけて徐々に高まり糖尿病と診断される値に至ります。
このため日頃の生活習慣を見直して高血糖の予防や改善に努めることが重要だとされているのです。
高血糖や糖尿病の診断基準については以下の記事で詳しく解説しています。
高血糖とは?血糖値の基準や高血糖の健康上のリスクについて解説
[2] 日本糖尿病対策推進会議「糖尿病治療のエッセンス 2022年版」
[3] 厚生労働省 e-ヘルスネット「高血糖」
[4] 国立研究開発法人 国立循環器病研究センター「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)ってなに?」
2.糖尿病の合併症
「糖尿病の合併症にはどんなものがあるのかな?」
「糖尿病は合併症が危険だって聞いたけど、何が起こるんだろう……」
糖尿病の症状は、ただ血糖値が高くなるということだけではありません。
糖尿病には高血糖に由来する症状だけでなく、多くの合併症が存在します。
糖尿病の合併症には何年もかけて進行する「慢性合併症」と、何らかの原因で突然生じる「急性合併症」があります。
この章ではそれぞれの合併症についてご紹介します。
2-1.慢性合併症
糖尿病の慢性合併症は「細小血管症」と「大血管症」に大別できます。
細小血管症は細い血管が傷つけられることで起こる糖尿病特有の合併症です。
一方の大血管症は心臓や脳、足などの血管が硬くなったり狭くなったりすることで起こります。
これらの合併症の原因は、いずれも増え過ぎた血液中のブドウ糖が血管を傷つけることです。
どの合併症も数年から数十年かけてゆっくり進行し、重症化しないと症状に気付かないこともあります。
しかし症状がないからと放置していると命に関わる危険もあるため、定期的に合併症に関する検査を受けて医師の判断を仰ぐことが重要です。
2-1-1.細小血管症(三大合併症)
細小血管症は糖尿病に特有の合併症です。
代表的な細小血管症には「神経障害」「網膜症」「腎症」があり、これらを合わせて三大合併症と呼びます。
【細小血管症(三大合併症)】
- 神経障害
- 網膜症
- 腎症
糖尿病の神経障害は高血糖の影響が「末梢(まっしょう)神経」に及ぶことで起こります。
具体的には、末梢神経に不必要な物質がたまったり、栄養を与える血管が傷ついて酸素や栄養素が行き渡らなくなったりすることが原因です。
神経障害は感覚神経、運動神経、自律神経などに広く及び、障害の起こる神経によってさまざまな症状が現れます。
神経障害は糖尿病の合併症として最も多く見られる疾患で、早い段階から自覚症状が現れやすいといわれています。
重症になると昏睡(こんすい)に陥ったり心拍が止まって急死したりする場合もあるため、早期の発見と治療が重要です。
糖尿病の網膜症は成人が失明する最大の原因で[5]、「網膜」の毛細血管が傷つくことで起こります。
網膜症になると網膜にある毛細血管が損傷し、詰まったり破れたりすることで大幅な視力の低下や失明に至ります。
網膜症は重症になるまで視力低下などの自覚症状が現れにくいといわれる合併症です。
このため糖尿病患者は、特に自覚症状がなくても年に1回は眼科を受診し、網膜症の検査を受けることが推奨されています。
糖尿病の腎症は腎臓の「糸球体」という組織が傷つくことで起こります。
腎症になると糸球体の毛細血管が損傷して構造が壊れ、腎機能が低下したり、血液中の老廃物が正常に排出されなくなったりといった異常が生じます。
腎症は人工透析治療の最大の原因疾患です。
腎症は自覚症状のないまま進行することが多く、気付いたときには人工透析目前まで悪化していたということもあります。
腎症を早期発見するには定期的に「微量アルブミン尿検査」を受けることが重要です。
糖尿病の細小血管症に対しては、症状の有無にかかわらず定期的に検査をして早期発見することが重要だといえるでしょう。
細小血管症(三大合併症)については以下の記事で詳しく解説しています。
[5] 一般財団法人 脳神経疾患研究所附属総合南東北病院「糖尿病の合併症」
2-1-2.大血管症
大血管症は「動脈硬化」によって生じる合併症のことです。
糖尿病になると、脳や心臓、足などの血管で動脈硬化が起こります。
これにより、脳卒中や虚血性心疾患、末梢動脈疾患、足病変といった大血管症を発症するリスクが高まります。
【大血管症】
- 脳卒中(脳梗塞、脳出血)
- 虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)
- 末梢動脈疾患
- 足病変(足壊疽(えそ))
脳卒中は脳の血管の動脈硬化が進行して詰まったり破れたりする病気の総称で、大血管症として起こる脳卒中には脳梗塞や脳出血があります。
脳梗塞は脳の血管が詰まって脳の組織に血流が行き渡らなくなる病気です。
一方の脳出血は脳の血管が破れて出血する病気です。
いずれの病気でも半身まひや感覚障害、言語障害などの症状が現れ、最悪の場合死亡する危険があります。
虚血性心疾患は心臓の「冠動脈」が動脈硬化などの理由で狭くなったり詰まったりする病気で、大血管症として起こる虚血性心疾患には狭心症と心筋梗塞があります。
狭心症は冠動脈が動脈硬化などで狭くなり、血流が悪化して心筋に必要な血液が不足し、酸素や栄養が行き届かなくなる病気です。
心筋梗塞は動脈硬化によって冠動脈に血の塊(血栓)ができ、完全に詰まることで心筋の一部が壊死する病気で、激しい不整脈によって突然死することもあります。
なお神経障害によって心臓の感覚神経が鈍っていると、痛みを感じずに治療が遅れる危険があります。
末梢動脈疾患は手足の血管で動脈硬化が進行し、狭くなったり詰まったりする病気で、特に足の血管に症状が出やすいといわれています。
末梢動脈疾患の主な症状は足が冷たくなったりしびれたりすることで、進行すると歩けなくなったり眠れないほどの痛みに襲われたりします。
重症になると足の組織が壊死し、傷の広がりや感染予防のために足の切断が必要となる場合もあります。
なお神経障害で感覚神経が鈍くなると、末梢動脈疾患による潰瘍や壊死の痛みにも気付きにくくなるため、手遅れになって切断に至りやすくなるといわれています。
足病変は糖尿病を原因とする足のトラブルの総称で、主に糖尿病の神経障害や末梢動脈疾患の結果として生じます。
足病変には水虫や細菌の感染、足の変形やたこ、潰瘍などがあり、悪化すると足の組織が壊死して切断が必要となる「足壊疽」になる場合もあります。
なお糖尿病患者は高血糖に伴って免疫機能が低下し、感染症にかかりやすく重症化しやすいため、日頃から足に傷ができないよう注意が必要です。
大血管症はそれぞれが重篤な合併症ですが、細小血管症とも密接に関わり合っていることが分かりますね。
大血管症については以下の記事で詳しく解説しています。
2-2.急性合併症
高血糖の急性合併症には「糖尿病ケトアシドーシス」と「高浸透圧高血糖症候群」の2種類があります。
【急性合併症】
- 糖尿病ケトアシドーシス
- 高浸透圧高血糖症候群
これらはいずれも何らかの原因で異常な高血糖に陥るもので、命に関わる場合もあります。
糖尿病ケトアシドーシスはインスリン不足により血液が酸性になり、強い脱水症状に陥る合併症です。
糖尿病ケトアシドーシスを発症すると急激に強い喉の渇きと頻尿、体重減少、吐き気、疲労といった症状が起こり、放置すると昏睡に陥り死亡する場合もあります。
糖尿病ケトアシドーシスは1型糖尿病を発症した際やインスリン注射による治療を中断した際に起こります。
また、けがや感染症などによって一時的にインスリンの必要量が急増した場合に起こることもあるといわれています。
加えて、2型糖尿病の方が糖質を多く含む清涼飲料水を大量に飲み過ぎた際などにも発症する場合があります。
高浸透圧高血糖症候群は極端な高血糖と強い脱水症状が生じる合併症です。
症状としては強い喉の渇きや頻尿が見られる他、眠気や錯乱、けいれん発作、昏睡などが起こり、死亡する場合もあります。
高浸透圧高血糖症候群は2型糖尿病の高齢患者に多く見られます。
肺炎や尿路感染症などの感染症、脳梗塞や心筋梗塞、急性膵炎など病気、手術のストレス、ステロイド薬や利尿薬などの薬剤、高カロリーの点滴などが原因で発症する場合があります。
急性合併症については以下の記事で詳しく解説しています。
3.糖尿病の原因
「糖尿病の原因って何だろう?」
「甘いものを食べ過ぎたら糖尿病になるのかな……」
糖尿病という病名から、甘いものや糖質を食べ過ぎることだけが原因だと考えている方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかし糖尿病には大きく四つの種類があり、それぞれ違った原因によって発症します。
このうち最も患者数の多い2型糖尿病は、加齢や遺伝的要因、肥満、運動不足など多くの要因が絡み合うことで発症に至ります。
この章では、2型糖尿病の主な原因について解説します。
原因1 加齢
加齢は糖尿病の原因となります。
これは加齢に伴って膵臓のインスリンを分泌する能力が低下するためです。
また年を取ると筋肉量や基礎代謝量が減少し、活動量も低下しがちになります。
この結果として体脂肪が増加しインスリン抵抗性が増大してしまいます。
老化がもたらす心身の状態や環境の変化によって糖尿病のリスクが高まってしまうのですね。
原因2 遺伝
糖尿病には遺伝的要因が深く関わっています。
家族に糖尿病患者がいる場合、そうでない人に比べて糖尿病を発症しやすいことが分かっています。
例えば糖尿病患者のきょうだいが糖尿病を発症する可能性は2~3倍高くなり、糖尿病の両親を持つ子どもの発症率は3~4倍高くなるとされています[6]。
このような遺伝的な要因には、「糖尿病感受性遺伝子多型」と呼ばれる複数の遺伝子が関わっています。
この遺伝子を多く保有している人ほど、糖尿病を発症するリスクが高まるのです。
また日本人は遺伝的に欧米人よりもインスリンの分泌能力が弱く、糖尿病になりやすい傾向にあるといわれています。
[6] 一般社団法人 日本内分泌学会「2型糖尿病」
原因3 肥満
肥満も糖尿病のリスクの一つです。
肥満になると脂肪細胞が肥大し、「アディポサイトカイン」の分泌に異常が生じます。
肥満になった際に分泌される「TNF-α」などのアディポサイトカインはインスリン抵抗性を引き起こし、糖尿病のリスクを高めます。
インスリン抵抗性が増大すると血糖値を下げるためにインスリンの分泌量が増えますが、やがて膵臓が疲弊して分泌量が低下してしまうのです。
このため高血糖の状態が長く続き、糖尿病に至ります。
また肥満によって肥大した脂肪細胞からは「遊離脂肪酸」の放出量が増加します。
血中に遊離脂肪酸が多い状態では、インスリンがブドウ糖を細胞に取り込ませるはたらきが低下します。
このように肥満は糖尿病のリスクを高めるのですね。
原因4 運動不足
運動不足も糖尿病の原因です。
運動にはインスリンの効きを良くする作用があります。
また運動によって筋肉への血流が増えて血液中のブドウ糖や遊離脂肪酸の消費が増加するため、血糖値を下げるはたらきも期待できます。
このはたらきはインスリンとは関係なく起こることから、インスリン抵抗性があっても血糖値の低下が見込めるといわれています。
運動不足ではこういった効果を得られないため、血糖値が上がりやすくなって糖尿病のリスクが高まるといえます。
また運動不足ではエネルギーの消費量が少なくなるため、糖尿病のリスク要因である肥満になりやすいことにも注意しましょう。
原因5 過食
過食は糖尿病を招きます。
過食をすると大量のブドウ糖を処理するために、膵臓はインスリンを大量に分泌しなくてはならなくなります。
過食が日常的になってインスリンの分泌量が多い状態が続くと、膵臓が疲弊してインスリンを十分に分泌できなくなり、糖尿病を引き起こします。
また過食をするとエネルギー摂取量(摂取カロリー)がエネルギー消費量(消費カロリー)よりも大きくなり、消費しきれなかったエネルギーが脂肪として蓄積されます。
これによって体脂肪が増加し、糖尿病のリスク要因である肥満に至ります。
原因6 高脂肪食
脂質を多く含む「高脂肪食」も糖尿病の原因となります。
ヒトの体のエネルギー源となる栄養素には炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質があり、このうち脂質は1g当たり9kcalと、糖質やたんぱく質の2倍以上のエネルギーを産生します[7]。
このため脂質の多い食事を摂るとエネルギー摂取量が多くなり、糖尿病のリスク要因である肥満につながってしまうのです。
なかでも、バターや生クリームといった乳製品や肉類の脂身、インスタントラーメンなどの加工食品に多く含まれる脂質の一種「飽和脂肪酸」には特に注意が必要です。
飽和脂肪酸は食欲を抑えるホルモン「レプチン」のはたらきを抑制するため、食欲に歯止めが効かなくなり肥満のリスクを高めるのです。
高脂肪食はそれ自体が高カロリーなだけでなく食欲を暴走させるため、肥満に陥る危険が高いのですね。
[7] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
4.糖尿病を予防・改善するためのポイント
「糖尿病はどうすれば予防できるんだろう?」
「糖尿病と診断されてから自分でできる改善策はあるのかな……」
糖尿病には加齢や遺伝的要因といった対策のできない原因もありますが、肥満や食生活、運動不足などの原因は生活習慣を見直すことで対策ができるものもあります。
糖尿病は多くの場合上記の原因が複数重なることで発症に至るため、生活習慣の見直しによって予防や改善が期待できるのです。
実際の糖尿病の治療でも、食事療法と運動療法が重要な位置を占めています。
この章では糖尿病の予防や改善につながる日常生活のポイントをご紹介します。
ポイント1 エネルギー摂取量を適正に抑える
糖尿病の予防・改善には、肥満に陥らないよう食事からのエネルギー摂取量を適正に抑えることが重要です。
肥満は糖尿病だけでなく高血圧や脂質異常症といった他の生活習慣病のリスクも高めるため、速やかに解消することが勧められます。
通常、肥満の判定にはBMIという指標が用いられます。
体脂肪が多く、BMIが25以上だった場合は肥満に当たります[8]。
なおBMIが22のときの体重は「標準体重」と呼ばれ、統計上肥満と関連が深い糖尿病や高血圧、脂質異常症などの病気に最もかかりにくいことが分かっています[9]。
このため、ご自身が標準体重であるときの推定エネルギー必要量を計算し、エネルギー摂取量の目安にすると良いでしょう。
1日活動するのに必要なエネルギー量は年齢や性別、身体活動の強さによって変わります。
身体活動の強さは以下のとおり3段階の「身体活動レベル」で表されます。
| 身体活動レベル | 日常生活の内容 |
|---|---|
| 低い | 生活の大部分を座って過ごし、日常的にあまり動かない場合 |
| 普通 | 座って過ごすことが多いが仕事でも立ったり歩いたりすることがある場合、通勤や買い物、家事や軽いスポーツをする場合 |
| 高い | 歩いたり立ったりすることが多い仕事に就いている場合、スポーツなどで活発に体を動かす習慣のある場合 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
それぞれの身体活動レベルでの1日の体重1kg当たりの推定必要エネルギー必要量は以下のとおりです。
| 性別 | 男性 | 女性 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 身体活動レベル | 低い | 普通 | 高い | 低い | 普通 | 高い |
| 18~29歳 | 35.5kcal | 41.5kcal | 47.4kcal | 33.2kcal | 38.7kcal | 44.2kcal |
| 30~49歳 | 33.7kcal | 39.3kcal | 44.9kcal | 32.9kcal | 38.4kcal | 43.9kcal |
| 50~64歳 | 32.7kcal | 38.2kcal | 43.6kcal | 31.1kcal | 36.2kcal | 41.4kcal |
| 65~74歳 | 31.3kcal | 36.7kcal | 42.1kcal | 30.0kcal | 35.2kcal | 40.4kcal |
| 75歳以上 | 30.1kcal | 35.5kcal | 29.0kcal | 34.2kcal | ||
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
先に求めた標準体重と体重1kg当たりの推定エネルギー必要量を掛け合わせることで、1日の適正なエネルギー摂取量を求められます。
身長175cmで立ち仕事に従事する40代男性を例に考えると、標準体重は1.75(m)×1.75(m)×22=67.375(kg)となります。
この場合身体活動レベルは「普通(Ⅱ)」に当たるため、体重1kg当たりの推定エネルギー必要量は39.3kcalです。
1日の適正な摂取エネルギー量は67.375×39.3で2,648kcalとなります(小数第1位で四捨五入)。
適正なエネルギー摂取量を把握し、過剰摂取を避けるようにしてくださいね。
[8] 厚生労働省 e-ヘルスネット「BMI」
[9] 厚生労働省 e-ヘルスネット「肥満と健康」
ポイント2 エネルギー産生栄養素を適切に摂取する
糖尿病の予防・改善には「エネルギー産生栄養素」である炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質をバランス良く摂取しましょう。
厚生労働省は、1日のエネルギー摂取量のうち、それぞれのエネルギー産生栄養素について以下の表の範囲内で摂取することを推奨しています。
| 性別 | 男性 | 女性 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 目標量 | たんぱく質 | 脂質 | 炭水化物(糖質) | たんぱく質 | 脂質 | 炭水化物(糖質) |
| 1~49歳 | ||||||
| 50~64歳 | ||||||
| 65~74歳 | ||||||
| 75歳以上 | ||||||
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
糖尿病の予防・改善に関して食べてはいけない食品や効果的な食品は特にありません。
このため適切なエネルギー摂取量のなかで偏りなく栄養素を摂取することが重要です。
特に脂質はカロリーが高く、糖尿病のリスク要因である肥満の原因になるため、摂り過ぎないようにしましょう。
そのなかでも飽和脂肪酸は、摂り過ぎると動脈硬化を進行させる「LDLコレステロール」を増やしてしまいます。
動脈硬化が進行すると大血管症のリスクが高まるため、飽和脂肪酸の摂取を控えることが大切です。
飽和脂肪酸はバターや生クリームなどの乳製品、肉類の脂身や鶏肉の皮、インスタントラーメンなどの加工食品、パーム油などに多く含まれます。
一方、さばやさんま、いわし、ぶりなどの青魚に多く含まれる「n-3系多価不飽和脂肪酸」は体内での中性脂肪の生成を抑制します。
また魚油を摂取すると脂肪細胞内の脂質の燃焼が促され、太りにくくなるとの報告もあります[10]。
糖尿病の予防・改善にはエネルギー産生栄養素を適切なバランスで摂取し、同時に脂質の摂取源となる食品の選択にも気を付けましょう。
[10] Minji Kim, Tsuyoshi Goto, Rina Yu, Kunitoshi Uchida, Makoto Tominaga, Yuriko Kano, Nobuyuki Takahashi & Teruo Kawada「Fish oil intake induces UCP1 upregulation in brown and white adipose tissue via the sympathetic nervous system」(『scientific reports』5, 2015)」
ポイント3 食物繊維を十分に摂る
食物繊維を十分に摂ることで糖尿病の予防・改善効果が期待できます。
食物繊維は便秘の予防などの整腸効果がよく知られますが、消化管内の糖質や脂質、ナトリウムを吸着して排出するはたらきも持っています。
このため糖尿病に加えて肥満や脂質異常症、高血圧を予防・改善する効果があるといわれます。
また糖質の吸収を緩やかにすることで血糖値の急上昇を抑制する効果も認められています。
厚生労働省は成人の理想的な食物繊維摂取量を1日当たり24g以上としていますが、現代日本人の食物繊維摂取量はこの量に遠く及びません[11]。
このため厚生労働省は現実的な数値として摂取目標量を以下のように設定しています。
| 性別 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 18〜64歳 | 21g以上 | 18g以上 |
| 65歳以上 | 20g以上 | 17g以上 |
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」をもとに執筆者作成
食物繊維は野菜類や豆類、きのこ類、海藻類、果実類などの植物性食品に多く含まれる一方、肉類や魚介類といった動物性食品にはほとんど含まれません。
特に食物繊維が豊富な食品は、かぼちゃやごぼう、たけのこ、ブロッコリー、モロヘイヤ、切り干し大根、いんげん豆、さつまいも、おから、納豆、しいたけ、ひじきなどです。
また主食を玄米ご飯や胚芽米ご飯、全粒粉パン、そばなどに置き換えることでも摂取量を増やせます。
これらの食品を無理なく食生活に取り入れると良いでしょう。
食物繊維の摂取源となる食べ物は以下の記事で詳しくご紹介しています。
食物繊維を含む食べ物は?摂取目標量と摂取量を増やすコツも解説
[11] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
ポイント4 体に必要な栄養素をバランス良く摂る
糖尿病の予防・改善にはバランスの良い食事が欠かせません。
先にご紹介したエネルギー産生栄養素を適切なバランスで摂取することに加え、ビタミンやミネラルも過不足なく摂ることが大切です。
糖尿病の予防・改善に関係のある栄養素がいくつかあります。
カルシウムとビタミンDは、共に多く摂取すると糖尿病の発症リスクを下げることが報告されています[12]。
カルシウムは乳製品や小魚、大豆製品などに、ビタミンDは魚類やきのこ類などに多く含まれています。
カルシウムの摂取源、ビタミンDの摂取源についてはそれぞれ以下の記事で詳しく解説しています。
カルシウムの効果とは?過不足の影響や摂取源となる食べ物も紹介
ビタミンDを含む食べ物は?適切な摂取量や効率的な摂取のポイント
またビタミンB1は糖質を分解してエネルギーにするはたらきに深く関わっており、血糖値を適正にコントロールするために重要な栄養素です。
ビタミンB1は肉類や魚類、豆類や未精製の穀類などに多く含まれています。
ビタミンB1の摂取源については以下の記事で詳しく解説しています。
ビタミンB1とは?作用や食事摂取基準、摂取源となる食品を紹介
このはたらきには他にもマンガン、クロム、リン、カリウム、亜鉛などのミネラルが関係するため、過不足なく摂取しましょう。
一方で、ナトリウム(塩分)は摂取を控えるようにしましょう。
ナトリウムによって直接血糖値は上がらないものの、塩分の強い食事は食べ過ぎや飲み過ぎを招きやすく、肥満の原因となります。
肥満はインスリン抵抗性をもたらし糖尿病のリスクを高めるため、ナトリウムは糖尿病の間接的な要因になるといえるでしょう。
またナトリウムは摂り過ぎると高血圧をもたらします。
高血圧は動脈硬化を促し、腎症や大血管症といった合併症のリスクを高めるため注意が必要です。
なおカリウムはナトリウムを体外に排出して高血圧を改善してくれるため、積極的に摂取すると良いでしょう。
カリウムは野菜類や果実類、豆類、いも類などに多く含まれています。
カリウムの摂取源については以下の記事で詳しく解説しています。
カリウムとは?はたらきや摂取すべき量、摂取源となる食品を紹介
[12] 国立研究開発法人 国立がん研究センターがん対策研究所 予防関連プロジェクト「カルシウムとビタミンD摂取量と糖尿病との関連について」
ポイント5 規則正しく食事を摂る
糖尿病を予防・改善するには規則正しく食事を摂る習慣をつけましょう。
血糖値を適切にコントロールするためには、毎食しっかり食事を摂ることが重要です。
食事を抜くと、次に食事を摂った際に血糖値が上がりやすくなるといわれています。
これは空腹の時間が長いと膵臓の細胞の反応が悪くなり、食後にインスリンが分泌されるまでに時間がかかってしまうためです。
また、深夜帯や寝る前の食事は控えることも大切です。
食後すぐに寝ると、食事によって上昇した血糖値がなかなか下がりません。
加えて余ったエネルギーが脂肪として蓄えられるため、肥満の原因にもなります。
また食事の際に食べる順番を工夫することでも血糖値の急激な上昇を避けられます。
空腹の状態で糖質の多い主食から食べ始めると血糖値が上がりやすいため注意しましょう。
血糖値の上昇を穏やかにする食物繊維を多く含む料理から食べ始めるのがおすすめです。
ただし野菜でもいも類やかぼちゃなどは糖質を多く含むため、主食などとともに後から食べるようにしてください。
さらに、よく噛んでゆっくり食べることでも血糖値の上昇を抑えられます。
これは咀嚼(そしゃく)することで脳が刺激され、インスリンの分泌を促すためです。
しっかり噛んで食べると、食べ物が消化・吸収されて血糖値が上昇する前からインスリンが分泌されるため、食後の血糖値の急上昇を避けられるのです。
またゆっくり噛んで食べると早い段階から満腹中枢が刺激されるため、食べ過ぎも抑制できますよ。
ポイント6 適度な運動習慣を持つ
糖尿病を予防・改善するには、適度な運動を日々の習慣として取り入れましょう。
なかでも有酸素運動は糖質や脂質をエネルギー源として用いることから、血糖値を下げて肥満を改善する効果が期待できます。
また長期的に運動を続けることで、インスリンの効きが良くなるといわれています。
実際に糖尿病の治療では有酸素運動を用いた運動療法が行われます。
糖尿病を改善するためには、ややきつい程度の全身を使う有酸素運動を取り入れましょう。
週に3回以上、1回20分以上を目安に、週に合計で150分以上行うことが推奨されています[13]。
なお有酸素運動に加えて週に2~3日、連続しない日程で筋トレを行うと運動の効果をさらに高められるといわれています[13]。
運動をする際は体力や健康状態などを踏まえ、無理のない運動量から始めましょう。
また好みに合った運動種目を取り入れるなど、楽しみながら継続できるようにすることが重要です。
[13] 厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病を改善するための運動」
ポイント7 節酒する
糖尿病を予防・改善するには、飲酒量を適切に抑えましょう。
適度な飲酒は血糖値を下げる効果があるため糖尿病の発症を抑えると考えられています。
しかし過度な飲酒はインスリンの分泌を抑制し、かえって高血糖をもたらします。
糖尿病を予防するための適度なアルコール量は純アルコール量で1日当たり20~25g程度とされているため[14]、これを超えない節度ある飲酒を心掛けましょう。
純アルコール20gは代表的なお酒では以下の量に相当するため、参考にしてください。
公益社団法人 アルコール健康医学協会「お酒と健康 飲酒の基礎知識」をもとに執筆者作成
ただしビールや日本酒などの醸造酒は糖質を含むため、その分血糖値が上昇してしまいます。
また高カロリーなおつまみを食べ過ぎることも高血糖の原因となります。
糖尿病の予防のためには節度ある飲酒を心掛けてくださいね。
[14] 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールと糖尿病」
ポイント8 禁煙する
糖尿病を予防・改善するには今すぐ禁煙しましょう。
喫煙は交感神経を刺激して血糖値を上昇させる上に、体内のインスリンのはたらきを妨げます。
実際に喫煙者は非喫煙者より糖尿病を1.4倍発症しやすく、喫煙本数が増えるほどリスクが高まることが報告されています[15]。
また既に糖尿病を発症している方が喫煙すると、治療の妨げとなるだけでなく大血管症や腎症といった合併症のリスクが高まります。
現在たばこを吸っていたとしても、禁煙することで糖尿病のリスクを減らせます。
糖尿病を予防・改善したい方は、禁煙外来なども利用してすぐに禁煙してくださいね。
[15] 厚生労働省 e-ヘルスネット「喫煙と糖尿病」
5.糖尿病が疑われる場合は早急に受診しよう
糖尿病が疑われる場合は早急に医療機関を受診しましょう。
糖尿病は症状を自覚しにくい 上に放置すると気付かないまま合併症にまで至る危険もある ため、早期の発見と治療が重要です。
糖尿病はある日突然発症するわけではなく、血糖値が正常値から徐々に高くなって発症に至ります 。
このため健康診断などで定期的に糖尿病に関連する検査項目をチェックすることで、糖尿病と診断される前に異常を発見することが可能です。
また糖尿病と診断された場合でも、早いうちから治療を始めることで合併症の発症を防げます 。
糖尿病の治療方針は、患者の病状や体の状態などに応じて変わります。
食事の内容や運動の種目頻度などについては必ず主治医と相談し、指示を仰いでください 。
6.糖尿病についてのまとめ
糖尿病は血糖値が高い状態が慢性的に続く病気です。
糖尿病は発症に至る原因の違いによって、1型糖尿病、2型糖尿病など大きく4種類に分けられます。
血糖値が高くなっても自覚できる症状はほとんどなく、糖尿病と診断されて初めて分かる場合もあります。
糖尿病は血糖値やHbA1cなどの値から、複数回の検査によって診断されます。
糖尿病になると、血液中に増え過ぎたブドウ糖が血管を傷つけることで慢性合併症が起こります。
慢性合併症は糖尿病になってから何年も掛けて起こるもので、細小血管症と大血管症があります。
細小血管症には神経障害、網膜症、腎症の三大合併症が該当します。
大血管症とは脳卒中や虚血性心疾患、末梢動脈疾患、足病変など、動脈硬化によって起こる合併症のことです。
またなんらかの原因で突然起こる急性合併症には糖尿病ケトアシドーシスと高浸透圧高血糖症候群があります。
糖尿病の原因には加齢や遺伝的要因、肥満、運動不足などがあります。
糖尿病の予防や改善には、食生活や運動習慣といった生活習慣の改善が重要です。
エネルギー摂取量や脂質、塩分の摂取量を適切に抑え、食物繊維の豊富な栄養バランスの良い食事を規則正しく摂ることが推奨されます。
また有酸素運動の習慣をつけたり、節酒・禁煙したりすることも有効です。
糖尿病は自分で気付くことが困難なため、健康診断などで定期的に血糖値などをチェックし、早期の発見・治療に結びつけることが極めて重要です。
この記事を読んで糖尿病がどのような病気なのかを理解し、予防や改善のための参考にしてくださいね。