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血圧を正常に保つ5つの方法|70代が今日からできる実践的な工夫

生活習慣の見直しは、血圧管理の王道です。ただし70代では、転倒や低栄養など年齢特有のリスクに配慮した「無理のない対策設計」が欠かせません。本稿では、減塩、有酸素運動、適正体重、禁煙、飲酒量の5本柱を、原文のエビデンスを踏まえて整理します。この文章では、高齢者でも続けやすい改善ポイントを解説しています。

血圧を正常に保つためのポイント

「血圧を正常に保つにはどのようなことに気を付けるべきなのかな?」 高血圧を改善するためには基本的に生活習慣の改善が求められます。 しかし体力の低下や運動によるけがのリスクなどを考えると、高齢者が若年層、中年層と同じような対策を行うのは難しいと考えられます。

また極端に生活習慣を変えてしまうとQOLを低下させてしまう恐れがあるため、注意が必要です。

QOLとは
クオリティー・オブ・ライフ(quality of life)とは人生や生活の質を指す言葉で、いかに人間らしい、自分らしい生活を送り、人生を幸福に感じているかということを尺度として捉える概念のことです。QOLが指す幸福は生きがいや心身の健康、良好な人間関係、やりがいのある仕事などさまざまな観点で計られています。

年齢に合わせた対策を行い、血圧を正常に保つようにしましょう。 血圧を正常に保つためのポイント

ポイント1 食生活を見直す

バランスのとれた和食 血圧を正常に保つためには食生活を見直す必要があります。 特に高齢者は食塩を摂取すると血圧が上がりやすいため、減塩することは血圧を下げるのに有効な対策といわれています。

高血圧を引き起こす要因はさまざまなものがありますが、日本人にとっては食塩の過剰摂取が最大の原因といわれています。 本来、食塩の形で摂取した余分なナトリウムは腎臓のはたらきによって尿として排出されます。

ナトリウムとは
浸透圧を調整するはたらきを持つミネラルの一つです。主に食塩として摂取されます。細胞外液の浸透圧を調節し、細胞外液量を保つはたらきがあります。過剰に摂取すると高血圧や胃がん、食道がんなどのリスクを高める恐れがあります。

しかし、塩分を過剰に摂取すると体液の塩分濃度を一定に保つために、多くの水分を摂り込み体液量を増加させます。 このように体液量が増えるとその分体内を循環させる血液量が増加し、血圧の上昇につながると考えられます。 1日に摂取する際の塩分量は6g未満を目標に減塩に取り組みましょう[1]。

塩分の過剰摂取を防ぐには、以下のような点に注意してください。 簡単にできる減塩の方法

しかし過度な減塩は汗をたくさんかいた際は脱水を引き起こしたり、味付けの変化によって食事の摂取量が低下し低栄養を引き起こしたりする恐れもあるため注意が必要です。

低栄養とは
健康的に過ごすのに必要な量の栄養素が不足している状態のことです。食事量が減少しがちな高齢者は偏った食生活になりやすく、このような生活が続くことでエネルギーやその他の栄養素が不足し低栄養を引き起こします。高齢者には特に「PEM」と呼ばれるたんぱく質とエネルギーが不足した状態が多く見られ、これは寝たきりの原因の一つにもなっています。

また過剰に摂取したナトリウムはカリウムを多く含む野菜や果物を摂取することで、体外への排出を促すことができます。

カリウムとは
浸透圧の調整に関わるミネラルです。ナトリウムを排出するはたらきがあり、塩分を摂り過ぎることの防止に役立ちます。その他にも神経伝達や筋肉の収縮などに関わっています。

薬味や調味料を使うなど調理を工夫したり、塩分の排出を促す食品を上手に摂取したりして無理のない減塩を心掛けてくださいね。

[1] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」

ポイント2 定期的な運動を行う

ウォーキングをしているひとの後ろ姿 定期的な有酸素運動は血圧を正常に保つための対策として有効です。

有酸素運動とは
筋肉を動かすために酸素と一緒に糖質や脂質がエネルギー源として使われる運動のことです。ウォーキングやジョギング、水泳、サイクリングなどが該当します。

高血圧を改善するためには毎日30分以上の有酸素運動が推奨されています[2]。 しかし高齢者では、転倒や関節障害などのリスクおよび心臓への負担を考慮すると、通常の速度での歩行が望ましいでしょう。

もちろん通常の速度での歩行でも血圧を下げる効果は十分望めます。 厚生労働省が公表した「健康日本21(第三次)」によると、65歳以上は6,000歩という数値が1日の歩数目標として設定されています[3]。

健康日本21とは
21世紀において日本国民一人一人の健康を実現するために厚生労働省が定めた方針のことです。趣旨、基本的な方向、目標、地域における運動の推進などの概要の解説、各分野の数値目標が掲載されています。

高血圧の度合いや合併症の有無などは人によって異なるため、事前にどの程度運動して良いのか医師に相談するようにしましょう。

[2] 厚生労働省 e-ヘルスネット「高血圧症を改善するための運動」

[3] 厚生労働省「健康日本21(第三次)推進のための説明資料」

ポイント3 適正体重に戻す

体重計にのるひとの足 肥満を解消し適正体重に戻すことは高齢の高血圧患者の場合でも、血圧を下げることにつながります。

適正な血圧を維持するためにも70代の適正体重を把握しましょう。 70代の目標とすべきBMIは21.5~24.9です[4]。

BMIとは
肥満度を判定する際に用いる指標です。BMIは「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で求められます。肥満の判定基準は国ごとに異なり、日本肥満学会の基準ではBMIが25以上になると「肥満」と判定されます。また肥満の度合いにより「肥満1度」から「肥満4度」に分けられます[5]。

近年では日本人の食習慣が変化したことによってメタボリックシンドロームを伴う高血圧患者数が増加しつつあります。

メタボリックシンドロームとは
内臓肥満に加え高血圧、高血糖、脂質異常症などが組み合わさり、心臓病や脳卒中などの命に関わる病になりやすい病態のことをいいます。ウエスト周囲径が男性85cm、女性90cm以上の「内臓脂肪型肥満」であり、血圧、血糖、脂質のうち二つ以上が基準値から外れた場合にメタボリックシンドロームと診断されます[6]。

なかでも65歳以上の男性はメタボリックシンドロームを疑われる人が約4割近くいるという調査結果も出ており、高齢者にも肥満対策が必要なことが分かるでしょう[7]。

内臓脂肪が過剰に蓄積すると、脂肪細胞から分泌される物質によって血管を収縮させたり、過食によるインスリンの過剰分泌で体液量が増加したりすることで血圧を上昇させます。

インスリンとは
膵臓(すいぞう)から分泌されるホルモンの一つで、糖の代謝を調節するはたらきがあります。食事によって増加したブドウ糖を筋肉などに送り込み、血糖値の上昇を抑えます。

このようにメタボリックシンドロームと診断されなくとも、内臓脂肪型肥満であれば血圧が上昇する恐れがあるため、肥満を解消する必要があるのです。

しかし急に減量することは、かえって健康に悪い影響がある恐れもあるため注意しなければいけません。 減量を始める際は自分の適正体重や減量方法、減量に要する期間などについて、必ず医師に尋ねるようにしてくださいね。

[4] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」

[5] 一般社団法人日本肥満学会「表 肥満度分類」

[6] 厚生労働省 e-ヘルスネット「メタボリックシンドロームの診断基準」

[7] 厚生労働省「平成30年国民健康・栄養調査報告」

ポイント4 禁煙する

たばことライター 禁煙は血圧を正常に保つための対策として有効です。 普段からたばこを吸っている人は禁煙しましょう。

たばこには人体にさまざまな悪影響を及ぼす成分が含まれているのです。 例えばニコチンは血管を収縮させ血圧を上げ、一酸化炭素は血中で酸素を運搬する「ヘモグロビン」と結び付き体や細胞への酸素の供給を阻害します。 たばこに含まれるこれらの成分は動脈硬化を進行させ、狭心症や心筋梗塞などの「虚血性心疾患」、脳梗塞などの病気を引き起こす恐れがあります。

虚血性心疾患とは
心臓の筋肉に血液を送る役割を持つ冠静脈が、動脈硬化や異常な収縮によって狭まったり、ふさがったりして血流が悪化することで心臓が酸素不足になる状態のことです。胸を圧迫されるようなものから、早朝・深夜など安静時の胸痛などさまざまな自覚症状があり、なかには自覚症状がないものもあります。

このように喫煙は高血圧だけでなく重篤な病気を招く可能性があるため、全ての年齢層において禁煙が推奨されています。

ポイント5 飲酒を控える

グラスのワインを拒否する男性 血圧を正常に保つために飲酒を控えることは重要です。 飲酒が体や精神に与える影響は、飲酒量ではなくお酒に含まれる純アルコール量が基準となります。

1日のアルコール摂取量の目安は、純アルコール換算で約20g程度です[8]。 これはビールなら500mLの中瓶1本分、日本酒なら1合(180mL)程度ということになります[8]。

純アルコール20g相当のお酒の種類と量

公益社団法人 アルコール健康医学協会「お酒と健康」 飲酒の基礎知識をもとに執筆者作成

また女性の場合は男性と比べて体や肝臓が小さいことで、男性よりも少ない量でアルコールの影響を受けやすいため、男性よりも摂取できるアルコール量は減らすようにしましょう。 他にもアルコールは脂肪に溶けにくいため、男性よりも脂肪が多い女性は飲酒時に血中アルコール濃度が高くなりやすいと考えられています。

血圧を正常な値に保つためにも適切な摂取量を守るようにしましょう。 2023年に発表された研究結果では、ノンアルコール飲料が飲酒量の減少に有⽤であり、減酒のきっかけにもなる可能性が明らかになりました[9]。 ストレスなく飲酒量を控えるために、ノンアルコール飲料を活用してみるのも良いですね。

[8] 厚生労働省「アルコール」

[9] H. Yoshimoto et al. 「Effect of provision of non-alcoholic beverages on alcohol consumption: a randomized controlled study」(BMC Medicine, volume 21, Article number: 379 (2023) )

まとめ

いかがでしたでしょうか。70代の血圧管理は「頑張り過ぎない継続設計」が重要です。

・減塩は1日6g未満を目安 ・有酸素運動は無理のない歩行と1日6,000歩 ・BMI目標は21.5〜24.9 ・禁煙と飲酒量の見直し

これらを主治医と相談しながら、安心・安全に実践していきましょう。